幕開きに永島敏行氏演じる片桐警部(原作には出て来ない)が、客席に向かいざっくばらりと語り出す。堅物らしさに愛嬌が加わり、小さな空間での商業演劇としてはいい具合。
妖艶な河合雪之丞丈の緑川夫人、初登場からサッパリ古風な二枚目の喜多村緑郎丈。新派ベテラン、伊藤みどり丈、田口守丈らが、揺るぎない演技で、大きく振り動く芝居の、ホッとするような新派の基点を示し、一方、大人のジャンルを知り尽くした斎藤雅文氏が仕組んだ、新派の歴史総まくり風テンコ盛りプランに、フル稼働する新派のフレッシュ陣!
映画以外、それなりに歴史を持った、演劇の他ジャンルへの移籍は、その昔、十四世守田勘弥が新国劇入りを考えたくらいじゃないかしら?梨園から飛び込んだ二人のスターによって、昔、歌舞伎劇も翻訳劇も同レベルで演じていた新派が、改めて再生するキッカケになるかも知れない。
黒蜥蜴を、現「新派」へ引き寄せ、独自の世界を作り出した斎藤氏の才覚に敬意を示したい。12月に、30周年記念として「黒蜥蜴」の上演を企図する花組芝居。気負っていた肩が、幾分楽になった気がします。有難うございました。
一寸法師を演じていた喜多村一郎丈(半面隈取のチャイナ服。本公演の立師で立ち回りでも大活躍)、元は市川猿琉と名乗る澤瀉屋の一員で、自由治屋(ふりいじや=押田健史)にトンボを教えた師匠だったとは!?
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