「やりたい事をさせれば良かったなア 」
10年間も音信不通の父子が、偶然出合った時、お互い住所すら定まらない困窮状態だった。再会はいがみ合いに始まり、隠された過去を暴く狂言回しに、双方の情報を知り得る闇金融の若手取立て屋を登場させ、バブル崩壊前後から大震災、ここ二十数年の「日本」を三世代の男を通して、午後五時から四時間の時空で網羅する秀作。
冒頭の台詞は、和解に向かいつつある父が、息子へ悲痛に発する言葉。そして、二人で亡き母に乾杯。思い出したくない過去を経ても、再び「親子」を感じ合う幕切れは、社会的には何一つ解決していない寒々とした結末なのに、灯されたランプのように、極く小さくはあるが、暖かな空気を感じる事が出来た。
来年傘寿を迎える平氏が、膨大な台詞を自在に操る。切り取られた、何処にでもありそうな日常を通して、時代と向き合う人間を、永遠不変的な営みにまで高めて描く永井愛氏には、神々を演じ果せる平氏の身体が必要だった。
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