人心地

| 修正

ようやくです。創るのが精一杯で、自分の出番を少なくしたのですが、初日からどうも精神的な余裕がなく、現場々々で過ごしてしまい、書くべき事も書かず終い…。遅まきながら。

「中村芝翫」

戦後から平成、どんどん加速する歌舞伎女形の女性化は、今やニューハーフとの差を縮めつつある。昔日の濃厚な女形芸は、若い女性達に毛嫌いすらされている。

ま、江戸時代でも、接待業を主とする美少年「色子」が、女形予備軍として舞台に立っていたから、あながち「反」伝統ではないが、それは「時分の花」という了解があっての事だから、醜の中にこそ美があるという歌舞伎の美学は崩れなかった。

歌舞伎好きの女子から実際に聞いた声、「芝翫の女形?(笑って)見ない、見ない」…。或るインタビューで、今の女形が、見た目にキレイでないと受け入れられなくなったのは、戦前から女形を生業にしている自分達の至らなさだと嘆いていた。

岸田劉生が明治の御代に既に瓦解を憂いていた、歌舞伎の泥臭さを、江戸当事と比較すると随分薄まっていたではあろうけれど、幾分なりとそれを体現する名優が、又一人消えて行った。

実際の演技は、六世菊五郎が世々に広めた「近代」で、しかも容姿は錦絵的な古風さを湛えるという、好劇家には堪らない条件を備えた役者だった。

濡衣、雛鳥、初菊etc.何処か寂しげな娘役が似合っていたのは、幼くして父を失った苦労人であった、彼の人生に因るのか…。合掌