リタルダント/東宝芸能&キューブ

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パルコ劇場久し振り!アングラの末裔やってると、大人な劇場へ足を運ぶ機会を失うのか(笑)。タイトルの「だんだん遅く」という音楽用語は、伊予屋が度々お世話になっているNAO-TA!プロデュース「rit.」がまさにリタルダント。あちらは「人生焦らず行こうや!」だったが、こちらは「ゆっくり忘れて行く」…。

ポップなチラシに音楽劇とあったので、まさかこんなドラマとは!?「若年性アルツハイマーを患った働き盛りのパパを抱えた家族と関係者達」…。それが判ってから、私、客席でずっと怯えてました。だって、主役の吉田鋼太郎氏共々、まさにその年齢の男子ですもの!突き付けられたものが余りにナマ過ぎて、実は、感動的な終幕で涙々の観客達に囲まれていながら、幾分椅子に凍り付いてました。

幕切れ、思い出せなかった歌を、奇跡的に歌うパパの姿が美しい分、この後、本当に何もかも忘れ、ゆっくり肉体も滅びて行く現実を思うと、正直涙は出なかった。一茎の葦に過ぎないものが、「考える」からこそ人間である筈なのに、思考する機能が破壊されて行く。こんな恐ろしい物語がミュージカル形式で演出されている驚き!

鋼太郎氏の歌声を、舞台で初めて聞くかしら?終演後、楽屋で「歌は不問にしてよ」と照れる鋼太郎氏。いやいや役者の歌だからいいのですよ。パパ役が奇麗に歌い上げちゃ、リアリティがなくなります。

見た人分の見方が出来る作品。辛い浮世を再確認する舞台なのに、観劇後の個人それぞれの興奮が面白い公演、月末までやってますんで是非!