おどくみ/新国立劇場

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平日(12日)の昼、ご年配の夫婦連れが多い客席。隣で「(前進座の)国太郎がね」と話をしているご見物が、これから青木豪氏の作品を見るのだ、と思うと愉快だった。

礼宮さまが学習院大に通っているという時代設定に、客席がウハウハと反応する。晴れてご婚姻なされた雅子さまが、その外交経験を生かし、動く大使館の役割を如何なく発揮し、子宝にも恵まれ、日本の更なる発展が期待されて芝居は終わる。が、その間に、戯曲に描かれる惣菜店「はたなか」は、家族崩壊を回避したようでいて、その実、ゆっくりと確実にバラバラになろうとしている。

平和の象徴である筈の鳩が、妻には殺したい対象になり、幕切れ、鳴き声はすれど姿が見えないという曖昧な「鳩」に、家長の父はのどかに「?」を繰り返す。

ノンフィクション作家佐野眞一氏が筋書で『人間は「物語」がなければ生きられない動物である』と述べている。天皇崩御が日本人にとって「大きな物語」の終焉だった、とも…。背景と筋を微妙にリンクさせながら、半自伝的内容だからこそなのか、頭で考えたリアリズムではない、だって私の家族は何故かこうだったのだもの!という不思議な説得力。感情の立ち上がりと納まりに理屈がないのがこの芝居の身上だとも感じた。丁寧そうでザクッとしてるのが心地良い。

4年前(もうそんなに経つか)に新国立劇場演劇研修所でシーンスタディを行った時、いろいろご意見を賜った樋田慶子さん(祖母役。「緋多景子」と名乗ってらした頃が懐かしい。新派の花柳章太郎氏のお弟子でした)、「眉かくしの霊」を演出した際、ご一緒した谷川昭一朗氏(次男役)、終演後、それぞれにご挨拶する。

演出の宮田慶子氏、いつお会いしても溌剌としてらっしゃるな。