復刻版「芸十夜」

| 修正

こういう状況だからではなく、以前から準備期間としていたスケジュールの中、とんでもない本を読んだ。

昭和47年に出版されたもの等を底本として、昨秋復刻された。八代目坂東三津五郎と武智鉄二の対談という形で、私の知らない「芸」の極意が惜し気もなく論ぜられる内容。能も文楽も歌舞伎も、1970年代、既に本物の芸が消えたという話だ。その頃から見始めて、あれが基準になっている私はどうしたら良いのでしょう、という思いで読み進んだ。

「(文楽で)音(おん)と節は違う。今は音を節だと思っている大夫が居る」の発言。最近見聞きしたのだが、文楽関係者が「音、つまり節です」え?私が良かったと聞く名人達の師匠達、更に辿る江戸時代、三代目三津五郎の芸を知る人達の発言も含めた、想像を超えた、もう訳の判らない「芸」の世界。

「犬も猿も芸はしますが、何百年苦労した人間の芸とは別です」若き八代目三津五郎の踊りを見て、親父七代目は「お客は褒めるだろうが、あたしは決まりが悪いね」深過ぎッ!こんなレベルの話が一頁毎に飛び出すんだから、正直読んでて目が回った。ただ、極意とは、こんな時に明かされ、あんな時に会得するんだという回路から憶測する、そのとてつもない底深さだけを知った。

こんな時だからこそ、心を豊かにしよう!と決意した。