顔見世狂言(かおみせきょうげん)って?/座長

| 修正

官許(政府が興行を認可)された江戸三座(中村座・市村座・森田座)では、役者との契約を一年間(11月1日~翌年の10月末日)としていました。毎年三座で話し合って割り振りしたようです。動員が偏る事を避けたんでしょうね。

今年はこんな顔触れで行きます!と発表し、役者達それぞれの魅力を次々披露する為に、毎年11月(顔見世月)に書き下ろされたのが「顔見世狂言」。

劇場毎の今後1年のカラーの違いを判り易く見せる為でしょうか、戯曲構成に約束事が随分あります。

番立(ばんだち)=名題下俳優が三番叟を、三味線なしの鳴り物だけで、しかも定式幕前で勤めます。これは通常の興行でも序幕の前に、舞台を清める為に上演したそうです。
脇狂言(わききょうげん)=三座それぞれ固有曲を、名題下俳優が踊ります。
序開き(じょびらき)=軽いコントのような作品を、名題下俳優が演じ、必ず人間以外の異類の者を登場させます。
二建目(ふたたてめ)=本編と関係のない物語を、名題下俳優が演じます。彼らにとっての登竜門的な一幕です。

ここまでは早朝から始まるんで、お客はごく少なかったようです。相撲の中入り前のような感じかしら?

一番目(いちばんめ)三建目(みたてめ)=ようやく本編です。公家や武家の世界を描く時代物となります。いよいよ座頭が登場します。悪人により窮地に立った善人をスーパーヒーローが救う「暫(しばらく)」の場と、「だんまり(暗闇での無言の戦い)」の場、が必ず入ります。
同じく四建目(よたてめ)=所作事(舞踊劇)です。「戻駕(もどりかご)」は顔見世狂言「唐相撲花江戸方(とうずもうはなのえどかた)」の四建目舞踊でした。
同じく五建目(いちたてめ)もしくは大詰(おおづめ)=物語の続きと結末です。話が治まらないと「六建目(むたてめ)」が付く場合もあるようです。最終幕は必ず金襖の御殿シーンにします。

二番目=庶民を描いた世話物となりますが、必ず雪が降っていて、一番目で登場していた人物が、市井の人にやつして出ます。最後に正体を現して幕を切ります。ここも話が長い場合、序幕と中幕に分けたりしたようです。
大切(おおぎり)=大概、最終幕は所作事になります。有名な「関の扉(せきのと)」は、顔見世狂言「重重人重小町桜(じゅうにひとえこまちざくら)」の大切所作事でした。

こういった約束事も、顔触れやら劇場の都合で崩す事でオリジナリティを出したりしたようで、「金幣猿嶋郡」に到っては、約束事を逆手に取ったパロディの連続で「茶番に過ぎる」という意見もあったようです。この件については、6月8日(日)の東急セミナーBEで解説致しましょう。