「金幣猿嶋郡(きんのざいさるしまだいり)」って?/座長

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文政12年(1829)11月中村座で上演された顔見世狂言。75歳の四世鶴屋南北が一世一代として書下ろし、実際、公演中の11月27日に亡くなっています。

原作は、祝祭色が強い為、ストーリー展開は二の次という顔見世狂言の特色を備えたものですが、ポイントとなる趣向があります。

~二つの「双面(ふたおもて)」~

「双面」には、怨霊が恨みの相手と瓜二つの姿で現れる形と、二つの魂が合体して恨みを晴らそうとする場合があります。

~第一の双面~

将門の魂が妻滝夜叉姫の死骸を借りて蘇り、筑波山を根城にする盗賊坂東太郎の女房になっている。将門を討った田原秀郷は、滝夜叉姫の元は許婚で、再会した女の魂は、実は自分が殺した男のそれであった。

~第二の双面~

将門の娘七綾姫は、自分を恋慕う藤原忠文に、父の命を救ってくれたら願いを叶えようと約束し、忠文はその通り実行したが、姫の約束は嘘で、忠文は恋も官位も失い没落する。七綾姫と不義の関係にある頼光は、知らずに見初めた清姫の怨念のような恋心から逃れようと必死である。この忠文と清姫が恨みを抱いたまま死に、その魂が合体して頼光七綾姫を悩ます。

これに、瀬戸内海で革命に失敗した藤原純友は、実は取り換え子で、盗賊坂東太郎こそ本物の純友であり、再び決起する!という話が加わります。

この作品は「怨霊として東の大地を支配する将門と、民衆の中に希望として保留された純友、これが南北の未来図(堂本正樹)」とも言われています。