芝居と花組芝居 加納幸和
明治になり歌舞伎は解放された。大名家の奥向きで、歌舞伎を演じていた「お狂言師」と呼ばれた女役者達が、男の歌舞伎役者と同じ舞台に立ち活動を始めたのである。徳川時代、町奉行が管理した「大芝居」でも、それ以外の庶民と近しい(低料金)「小芝居(江戸時代は、興行日数、劇場構造など様々な制約があった)」でも、男女が打ち交じり、「大」「小」の役者の行き来交流もある程度行われていた。それが可能だったのは、女役者達が男役者の表現を、お手本として修練していたからである。
ところが、新時代の機運により、自由民権運動に基づく「壮士芝居」や、芸術至上主義の「新演劇」の台頭が、歌舞伎を脅かす存在となり、大資本を背景にした「大歌舞伎」が生まれるに及び、一つだった歌舞伎界に、格式という境界線を作り、伝統的な国劇を主張し、その紛い物でありながら、先んじて海外公演を成功させる程、力を持って居た「小芝居」を、旧幕時代のように差別するようになった。そんな逆境の中でも「小芝居」は1970年代まで生き残った。しかし何かの操作か、戦後間もなく消滅した事にされてしまった。
「小芝居」は臭いとか場当たりだと忌み嫌われたが、江戸時代以来の型や演目が伝わり、庶民を楽しませるが第一だった、本来の土俗なパワーを持って居た。それでいて、見聞した人々の記憶として、「大」に引けを取らない名優が数多く居たという。
この「小芝居」と我々「花組芝居」の共通点だが、勿論、前者は歌舞伎専門のプロであり、花組芝居の出自は現代演劇である。特権的な歌舞伎を、今一度庶民レベルに引き戻し、歌舞伎表現の可能性を広げると共に、我々自身の表現も豊かにするというのが、旗揚げ以来、揺るぎない方針である。正統を主張する「大」歌舞伎から外れた「小芝居」、一方、現代演劇の立ち位置から、歌舞伎の魅力を探ろうとし、「ネオかぶき」と称する「花組芝居」。時代も中身も違うが、大通りから逸れた横町で、歌舞伎の原点を大切に、独自の花を咲かそうとする似た者同志！大道でない「紛い物」同志！
絶滅した「小芝居」が、ある時、異なる土壌からニョキニョキ生えたのが、もしや我々花組芝居なのではないか？と最近思う次第である。