口福、危うし

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気が付けば、私は何時もの様に、何時もの時間に、何時ものボタンを押していた・・・

午前10時40分。
「ラーメン」そして「半ライス」・・・
皆様はもう飽きただろうか。
しかし私は、飽きると言う事を知らない・・・

ご無沙汰をしていた。
スカンジナビア半島に、骨董の買い付けに行っていた私。
「日本に帰ったらまずは・・・」
と、喉を鳴らしながら楽しみにしていた。
暖かく帰国を迎えてくれるはずの、ばあやの「ミネストローネ」をも口にする事無く、私は運転手に、成田から直接「ラーメタル」に向かう様に命じた・・・

店に着くやいなや、コルトン・シャルルマーニュも、シャトー・エレーヌ96も呑み飽きていた私は、セルフサービスの「冷水」を一気に飲み干した。
「さてさて・・・」
手を擦り合わせながら待っている私の元へ
姉さん「はい、お待ちどう様で〜す」
久しぶりに聞く懐かしいフレーズ。
姉さん「ラーメンと半ライスで〜す」
漸く、漸くやって来た至福の時間。
「でわでわ」
と箸を割り、「何時もの」嫌「久しぶりの」「我が儀式」を行い始めた・・・
「ラーメン」に「胡椒」たっぷし、「胡麻」をたっぷし振りかけ、さてさてライスには「激辛高菜」をたっぷしと・・・
ふと、動きが止まった。
「ん?」
違う。明らかに違う・・・
「高菜が・・・高菜が変わっている!!!」
明らかに太さが違う。色が違う。香りが違う。絶対に違ーう!!!
口に含んでみる。
ただの高菜である。全く辛く無い。刺激が無い。汗が出な〜い!!
何だ。何が起こった!
「おい、料理長を呼んでくれたまえ!!」
しかし、料理長は何時まで経っても来ない。当たり前だ。叫んだのは我が心の中。
何だ。何なんだ。何故私に黙って高菜を変えたんだ!!!
何度も言っているではないか。私がこの店を贔屓にしているのは、「ラーメン」はさる事ながら、「半ライス」に乗せて食べる「激辛高菜」が魅力だったかだ!!・・・

隣のお客「高菜、変えたの?」
姉さん「そうなの。辛過ぎるって、よく言われてね・・・」

世の中は、率直な意見に従う様に出来ている。
客商売は尚更である。何年通っても、どんなに好きでも、黙っていては、何も伝わらない・・・

  ドフトエフスキー著
  「何より此れが好きー」より