逃げた幸せの青い鳥

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ある水曜日、新宿駅構内にて・・・

どうやらお腹がすいているらしい私。
ただ、昨夜のお酒も少し残っているらしい私。
「何か食べたいなぁ」うろうろする私。
パン屋、違うな。
カレー屋、重いな。
立ち食い蕎麦・・・うーん、何か違うなぁ・・・
しばし、うろうろ。
「あっ、これや、これやがな、今っ」
神は私の味覚の右肩を優しくたたいた。
「卵かけご飯定食380円」
どうやら脳内、口内、財布内、全ての神様が納得しはった様である。
チェーン展開しているらしいこのお店。
入り口の券売機で食券を購入。
この世の中に敵など一人も居なさそうな、にこやかなお姉さんに食券を渡す。
「卵一丁〜」
やはり敵を作り得ない涼やかな声でオーダーを通すお姉さん。
漆塗り風のお盆に、一口ずつの白菜のお漬けもんと、キンピラゴボウ、五枚で1Pの焼き海苔、おあげさんとネギたっぷしのお味噌汁、やや上品な盛りのご飯、そしてメインの「生卵」・・・
「おおきに、姉さん」静かにセルフで席に着く。
「さて・・・」
濃い味好きな私。生卵に醤油をざぶざぶ。
混ぜるのももどかしく一気にほかほかのご飯へ・・・
只・・・ここで・・・小さな幸せに・・・ストップが掛かった・・・    
隣で、私と同じ「卵かけご飯定食」を食しているおじさんの目の前には「卵かけご飯専用醤油」が・・・

「そりゃねーぜ、ポロネーゼ」
いつか、何か機会があったなら、一度は食してみたかった「卵かけご飯専用醤油」
こんなところで、こんな形で・・・
「姉さん、一言言うてくれたらええのに・・・」

虚しさを禁じ得ない。
頬を伝う涙、目の前のご飯が見えない。

己の涙で、更にしょっぱい「卵かけご飯」をすすり込んで、何も知らない姉さんに別れを告げた、しょっぱい初夏の新宿駅であった・・・