文明開化で、それ以前の荒唐無稽で下品な芝居は恥ずかしいってんで、物語も見た目も史実に沿った作品が作られました。「活歴(かつれき)」なんて呼ばれましたが、これ決して褒め言葉でなく、その裏に「お高く止まってつまんない」というニュアンスがあるのだそうです。
それじゃ駄目だ!と立ち上がったのが坪内逍遥でした。子供の頃から歌舞伎好きだった彼は、伝統的な面白みを失った当時の「活歴物」に、ウンザリしていました。
「古い革袋に新しき酒を盛られぬと言うが、それは水と油と言うような、全く質の異なった物を盛ろうとするからの事だ」
シェイクスピアの支離滅裂さは、日本の芝居に似ている。勝手放題に書いたからこそ、面白さがあるんだ!と、豊臣家の滅亡物語に、「ハムレット」を趣向に織り込み、それを近松門左衛門風な文体で彩り書き上げたのが、『桐一葉』なのです。