526 長恨歌

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長文覚悟!
↓以下の文章は梶原昌五さんという岩手大学准教授の方が書いたものです。まず、広くたくさんの人に読んでもらいたいと思い、ここに転載させていただきます。

「がれき広域処理反対の方々へ」
津波被災廃棄物の広域処理に反対の方々にぜひ読んでいただきたくて、この文章を書きました。

お願いは2つです。

1)広域処理に反対するならば、被災地での処理にも反対してください。

皆さんが健康に不安を覚えるように、私たちも不安を覚えています。
故郷である街で過ごすことに。
そして、処理施設については、皆さんのほうがはるかに恵まれているからです。その恵まれている人たちの不安が、今、すべてを失ってしまった私たちより大きいはずがありません。
皆さんが主張することが本当なら、はるかに経済力も余力もある皆さんに、私たちも助けて欲しいのてす。
そして、日本を良くして欲しいのです。


たとえば岩手県では、津波以前にも、沿岸の広い範囲(岩手県が四国4県とほぼ同じ広さだということをご存知ですか?)に、久慈、宮古、釜石、大船渡の4つしか焼却場がなかったのです。それで足りるような土地である、ということです。今は同じ地域に、旧施設を改修したりして仮の焼却場を3つ稼働させていますが、とても小さいので、それでも間に合いません。

これに対して、神戸と比較して、廃棄物の量の問題を出して「おかしい」という人がいます。
が、それは量ではなく、重さです。
どう考えても、神戸から出た被災廃棄物のほうが圧倒的にコンクリートが多く、燃やせないものが多いでしょう。
また、大規模な火事もあり、そして津波もなかった。
中身を考えないと、重さだけでは比較できないことがあります。

また、化学物質の拡散を指摘する人もいます。
これは、被災直後、私のところに外国のジャーナリストから聞かれたということで、質問がありました。
これだけの被害だから化学物質の影響が心配だが、どうなっているのか、と。
その当時の私には、「今はそれどころではなく、生存者捜索や遺体回収に手一杯だ」と答えるしかありませんでした。
遺体の捜索は1年以上経った今も続いています。探せていない場所があるからです。見つかっていない人が多いからです。復興など、どこにあるの?という状態が続いています。

なので、化学物質に関しては、何を今ごろという感が拭えないのですが、岩手県のがれきにおける放射性物質の問題が鎮まって来たからこそ、皆さんも化学物質のことに気がつかれたのでしょう。遅いと思いますが、それは良いことだと思います。
だからこそ、ご自分の不安が明確であるのなら、今そのがれきを目一杯処理している、低レベルの焼却場しかない被災地の人たちのことにも気づいて欲しいのです。

津波被災で1割の方々が亡くなったり行方不明で(東京では100万人くらいにあたる?)、さらにがれきがあるために、子どもを持つ方々はどんどん地域を離れています。これが、復興が遅れるとする原因の一つです。40代の働き盛りがいなくなる、ということです。
ただでさえ老人ががんばっていることをウリにしているような地域です。ますますの高齢化と、残った人たちの精神的疲労。復興には数字だけでは語れないものがあり、また、他地域、特に神戸のような都会と、三陸沿岸のような過疎も究極までいったような地域とを比較することには無理があります。

たとえ復旧して元の経済状態に戻ったとしても、これらの街が、新しく建てる処理場を維持していくだけの経済力を持つかどうか。雇用が生まれるのは一時的なもの。国の対策費が出ている間だけです。必要がなくなれば施設は閉鎖され、従業員は解雇されるだけです。どうか、新しい雇用、などという、非持続的な雇用を美化するような言葉を使わないで欲しいのです。
いかに日本の田舎が疲弊しているかをもっと切実に感じて欲しいのです。
だから、被災地に来てくれ、と、被災地のみんなが言っているのです。


2)被災地を自分の目で見て、自分の言葉で語って下さい。

そこには、あなたと同じ人が、ある日突然生じた地震と津波によって、親や子どもや親戚、友達、そして職場、仕事、さらにローンの残った自分の家、車、家財道具など、すべてを失って、底冷えのする仮設住宅や、半壊した家で、近くに店もない状態で毎日を過ごしています。
これらの人が何か悪いことをしたのでしょうか。
皆さんが醜い言葉を公開していじめるだけのことをしたのでしょうか。
インターネットで得た、誰が書いたかわからない言葉を、さらに意を曲げてまで反対する立場にあなたがたはあるのでしょうか。あったとしても、それを被災地の人たちにも読めるような形で公開する意図はどこにあるのでしょうか。
できるのなら、騒いで煽るだけでなく、もっと権力を持っているところに直接意見を出して欲しいのです。
出すのなら、私たちのことも考えて、日本全体の制度や法律を変える形で出して欲しいのです。

がれきの処理ができる施設は、被災地以外の地域にはたくさんあるのです。余力もあるのです。

たとえばあなたは、ご自分のお出しになったゴミや、ご自分がお使いになっているいろいろな物を製造するときに出た工場からのゴミが、どこでどのように処理されているか、ご存知ですか?
ゴミ処理に関して、きちんとした情報(どういうゴミがどこで処理されているか、またその量や金額など)を自治体はもっと誰でもが見られるようにすべきだと私は思います。これは、私自身が三陸沿岸のある地域のゴミ処理に関して講演を依頼されたときに感じたことで、私は役場と県からわざわざ資料を出してもらいました。
誰にでもできることですが、そういう努力をしたうえで、ご自分の自治体の状況を把握していますか?
大切なのは自分の住んでいる土地でのゴミ処理がどうなっているかなのに、どこの地域の話しかわからないインターネット上の情報に振り回されていませんか?

ちなみに、岩手県と青森県では、そういう豊かな生活をしている皆さん方の生活を支えるために排出された産業廃棄物が不法に投棄され、不法投棄場所である青森県と岩手県の県境にある山の頂上に処理場を作り、そこから厳重にコンテナに入れられた廃棄物を、できるだけ県内の施設で処理しています。広い岩手県では、片道4時間かからないと行けない県南沿岸のセメント工場まで運ばなければ処理できないものもあります。往復1回で、トラック1台の1日の仕事は終わります。私たちには関係のないところで儲けた方々のゴミを、この貧乏県2県が、国の補助は半額ありながらも、県民の税金で処理しているのです。これは10年以内にやれ、という時限立法に従っているので、止めるわけにはいきません。

そのような中で、処理施設を持っている自治体に、その余力(あなたの地域の処理施設の稼働率をご存知ですか?低いと税金の無駄遣いと怒られている施設もあるはずです)で、処理していただこうとするのが広域処理です。行政区を越えるとそれはすぐに「広域」を意味しますので、遠い近いは関係ありません。

また、岩手県では、そうやって出た灰を、内陸のある地域の山の中に埋めています。
こういうやり方は、皆さんの土地でも同じです。いや、それこそ「広域」処理をして、千葉県は秋田県に焼却灰の処分を依頼していましたが、放射線量が高かったために、掘り出して戻したりしていますよね。すでに皆さんの地域でも、灰は別の地域(たぶん東北やその他の田舎)に「広域」処理していませんか?
ぜひ調べてみてください。そしてそれを公開してください。みんなで共有しましょう。

話を戻しますが、その灰から危険な物質が漏れ出さないための設備も施したうえで、どこの自治体でも、広い範囲の山を削り(たいていは谷間や窪地だったりしますが)、灰を埋める場所を作っています。これも、今岩手県では、計算上では次のものを早急に作らないといけない状態にあります。(旧知の担当者に聞きました)
そういう施設を作りたくないのではなく、追いつかないのです。なので、今、適正に処理できる施設をお持ちの地域、行政にお願いしているわけです。

もう一度お願いします。

あなたの地域での処理に反対するなら、私たちの地域での処理にも反対してください。
なぜなら、私たちも同じ人間だからです。
また、処理場を作るには時間がかかるうえ、継続的な雇用につながらないからです。

そして、被災地を見に来てください。
同じ経験はできなくとも、何か人として感じて欲しいのです。
そのうえで、自分の言葉で語って下さい。
それができないのであれば、本気で反対しているとは思えません。

どうぞよろしくお願いします。