スペシャル鼎談企画第一弾! 

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現在、絶賛前売り中の次回作『花たち女たち』のチラシ、もうご覧になりましたか? クールでスタイリッシュな着物美人2人が微笑みを浮かべつつ火花を散らす絵柄は、花組芝居をよく知る人にも未見の人にも大評判を呼んでいます。そこで、美麗なイラストを描いてくださった大谷リュウジさんをゲストに迎え、「夢たち」チームの正子役・植本潤と蔦代役・八代進一が、その創作の秘密をお聞きしました。

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植本 今回のチラシ、インパクトが大きいみたいで、いろんな人がすごくいいって言ってくれるんですよ。この絵って一応、正子と蔦代をイメージして描かれたんですよね。
大谷ええ、(着物の柄を)薔薇と豹にしたのは、それぞれの性格を出したほうがいいかなと思ったんです。
植本 えーと、イイモノはどっちですか?
大谷こっちかな(と右の人物を指す)。もらった指輪を「いいでしょー」って見せびらかしている。で、こっち(左側)が肉食系。
八代 蔦代ってワルモノなんだ……。
植本 俺の中ではね(笑)。でも大丈夫、悪役好きな人もいっぱいいるから。


――加納さんが豹を気に入って、書き足して下さいとオーダーしたそうですね。

DSC_0481s01.jpg大谷 「帯から出てくるくらいの感じがいい」と言われて、そうしました。
八代 出てますねー。加納さん、この衣裳でやろうとか言いそう。
植本 よく見ると、指物(さしもの)(簪)にも虎とか龍とかいるんだよね。大谷さんのホームページを拝見したら洋風の絵がほとんどでしたけれど、和物のお仕事も結構されてるんですか?
大谷 いや、着物の女性を描いたのは今回が初めてなんです。
植本 でも、こういうタイプの女性が和服着てるのって、すごくいいと思いました。
八代 今っぽいしね。
植本 僕は、女形やるときに自分の理想の女性でやってみたりするんですけど、描く場合もそういうことってあります?
大谷 描き出した当初は、そういう気持ちで描いてましたね。
八代 人だけじゃなくバイクとか車とかもそうですよね。結局、表現するってフェチの話になってくると思う。
植本 なかなか現実には、こういう女性はいないからね。
八代 そして、これがチラシになって、僕らこういうふうにはなれませんからね(笑)。
植本 そう、チラシとしてはとっても良いんだけれど、こんなにハードル上げてどうするんだっていうところもある(笑)。
八代 すごい高いよね。
hanatachi_illustcut03.jpg植本 前から花組芝居を観ている人は大丈夫だろうけど、このチラシ見て初めて来た人は、イラストで描かれていた役は舞台のどこにいるの?と思いそう。芝居観に行くと何十枚ものチラシの束をもらうんですけど、その中でもこれって目立つんですよ。この前も、前の前の席の人が広げて見ていて、「俺、そこに描いている役やるの俺!」という思いと、「言ったらダメだ、逆効果かも」という思いで葛藤しました(笑)。
八代 チラシって、お芝居の入口なんですよね。お客さんにとって入口になるのはもちろんだけど、つくる側にとっても、作品の中で最初に世の中に発信するものだから。そこから稽古が始まって、衣裳や大道具・小道具ができていって、音響が決まってという中で、本番でやる僕らのハードルがだんだん高くなっていくわけです。それが今回は、最初からいきなり高くされてるぞと(笑)。
DSC_0480.JPG植本 また、うちの座長が、意外とチラシから演出の影響受けたりするんですよ。
八代 衣裳だけじゃなく、メークもこれで行こうって言われたらどうする?
植本 いや、それは無理。


描くのは100%デジタル

植本 初めてということで、和物を描くご苦労ってありましたか?
大谷 着物やその髪型って、いろいろ決まりがあるじゃないですか。もちろん資料は見ましたけれど、そこからどこまで崩していいか、知ってる人が見たらおかしいって言われないかが、ちょっと怖かったです。でも、加納さんが自由にやっていいって言って下さったのは楽でした。僕としても、形式ばったものじゃなく、崩した自由な感じで描きたかったので。
八代 僕は大谷さんのホームページを拝見して、かっこいいものが好きな方なんだろうなと思ったんです。人物だけじゃなく、バイクとか飛行機とか。あと、白黒の作品が多いですよね。
大谷 白黒でしか描いてないんです。オーダーされるのもそればかりだし。
植本 変な質問ですけれど、イラストで食えるようになるきっかけが白黒の絵だったりするんですか?
大谷 そうですね。イラストの仕事をやり出してから10年くらい経ちますけれど、当時は白黒だけで描く人がいなかったのと、デジタルで描いている人もあまりいなかったので、それで何とかやってこれたかなって感じですね。

hanatachi_illustcut01.jpg植本 僕は全然分からないんですけれど、これはパソコン上でどうやって描いていくんですか?
八代 僕はウィンドウズですけれど、イラストレーターとかペインターで絵を描いてるんです。これは何枚くらいレイヤー使ってるんですか。
大谷 レイヤーというか、パーツごとに描いて上に乗せていくんです。だから、この二人の女性も元絵は単体なんですよ。髪型と一つ一つの簪も別々に描いてます。
植本 じゃあ、たとえばパソコン上で簪をもっと深く挿したりもできるんだ。
大谷 ええ、そういうのを直すのは簡単です。
八代 デジタルで描くのは、そこがいいですよね。
大谷 不要な部分を消したり、大きさ変えたりは自由にできますからね。
植本 全部描き上げるまでに、どのくらいかかりました?
大谷 詰めて描いて一カ月くらい。
植本 そんなにかかるんだー。僕らは今回、芝居の主人公コンビということで座談会に呼ばれたんだと思いますけれど、実は、劇団のチラシを何作か一緒に手がけたコンビでもあるんですよ。で、プロの方に対してなんなんですが、同じ仕事を経験した者として、さすがにいい仕事なさっているなと。
(全員爆笑)

23.jpg植本 うちのチラシを一通り持って来たんですよ(と並べて見せる)。今までも名のあるイラストレーターさんや、いろんなデザイナーさんにお願いしてるんですけれど、その中においても、今回のチラシって異質な感じがします。
八代 インパクトあるよね。
植本 で、僕らが手がけたのが(笑)、これ(95年の『泉鏡花の夜叉ケ池』)とこれ(94年の『雪之丞変化』)。『夜叉ケ池』は八代が、ストーリーに沿ってタロットカード風の絵を描いたんだよね。
21.jpg八代 『雪之丞変化』は、なぜか座長の私物の錦絵というのがいっぱいあったんで、それを横尾忠則風のコラージュにしようと思ったんです。でも、まだマックで取り込む技術とかなかったから、カラーの写真にして夜中まで切り張りしてつくったんですよ。
大谷 へー、すごいですね。


ファッション誌はチェック

八代 プロの方にお聞きしたいんですけれど、イラストのセンスとかって磨けるもんなんですかね?
大谷 どうなんでしょうかねー(笑)。センスの方向によるんじゃないかな。自分の好きなものばかり描き続けていたら、もし方向が間違っていても、それはそれで、その人のセンスってことになっていくんじゃないかと思います。
八代 もちろん、仕事でやっていく上でも自分のやりたいことはキープしておくべきだろうけれど、それと同時に、人に受け入れられなければ“センスがいい”ということにはならないような気がするんですよ。
大谷 確かに、流行りの先端いっている人がいいと言えば“センスがいい”ということになるのかもしれないけれど……
植本 俺たちも女形のメークするときに、自分のやりたいメークと今流行っているメークってあるじゃない? 何年か前だと目頭に白入れるとか。そういうことってイラストの世界でもあるんですか?
大谷 やっぱり人物を描くとき、ファッションとかメークとか髪型とかは、今の時代に合わせます。だから、ファッション誌とかはよく見てますよ。「vogue」とか「ELLE」とか。
植本 決してアゲアゲ系ではないんですね(笑)。
大谷 若い人のはあまり見ないですね。
hanatachi_illustcut02.jpg八代 僕も、駅のポスターとか電車の吊り広告とか見て、今のメークの流行りはこうなんだって思う部分はある。空港でも免税店で化粧品見ちゃうもんね。やっぱりMACの色はいいよな、とか。
植本 目の周りに全部アイライン引いちゃう“囲みメーク”というのが流行ってるんだ、でも僕は目尻はあけたいぞ、とか。昨日もテレビで目を3倍にするメークとかやってて、つい見ちゃった。
八代 それは教えてもらわないと(笑)。
大谷 なんか楽しそうでいいですねー。
植本 おじさん二人でメークの話するのって、他の劇団ではないと思いますけど(笑)。


――ところで、大谷さんは演劇のお仕事が初めてというだけでなく、舞台自体をご覧になったことがなかったとか。
大谷 今年の頭に、たまたまSMAPの香取君のミュージカルを観に行く機会があって、それが初めてくらいです。
――初めてのジャンル、しかも初の和物ということで、依頼されたとき戸惑いはありませんでしたか?
大谷 やったことがないから、逆にやりたいというのはありました。
植本 一つ心配なのは、一般企業のお仕事と比べて、演劇はギャラが安いんじゃないかなということ(笑)。
DSC_0484.JPG八代 それはあるかもしれないけれど、アーティスティックなところでの新しい出会いって、ものをつくる上での刺激になりますよね。座長は常にそういう出会いを求めてると思うし、今回もそうなればいいなと思います。
植本 今回ダブルキャストなんですけれど、ぜひ両方とも観てください。
大谷 楽しみにしています。
八代 「俺の絵と全然違う!」って怒らないでくださいね(笑)。


プロフィール

大谷リュウジ
1975年生、香川県出身、東京在住。2001年に大阪のFM局によるアートオーディションで受賞後、イラストレーターとしてデビュー。その後、イラストレーターとして独立。人物や装飾、乗り物から植物まで多様なモチーフをモノクロの繊細かつ大胆なラインで表現し、広告、雑誌、書籍等のイラストレーションから、店内装飾、各企業ブランドとのコラボレーションビジュアル、デザイン等の仕事で幅広く活躍中。
ホームページ:http://otaniryuji.com/