[加納]『陽炎座』人物命名秘話

小説「陽炎座」はとても不思議な内容です。青空文庫でも読む事が出来ますが、如何せん、泉鏡花の描く世界が独特な上に、相変わらずとても厄介な文体で、二度三度と読まないと良く判らない(笑)。11月の舞台は、その所を芝居らしく再構成し、義太夫と黒御簾音楽(長唄)の生演奏共々、楽しめる作品を目指しております。

さて、実は原文の登場人物、ごく一部を除いて、氏名が明かされていません。舞台作りの基盤となる台本の性質上、人物が名無しでは困るだろうと、全て新しく命名致しました。

〇女主人公「品子」の苗字、非常に強い意志を持つ感じが欲しいので《桐生品子》!

〇その連れである「若きジェントルマン」は、十九で病死した「お稲(いな)」の兄。米のイメージと音の響きから《笹山稟太郎》!「稟」は米蔵を意味します。

〇芝居小屋の表方らしい「ちょんぼりとした丸髷」を結った「古女房」は、有りそうで珍しい名前を選んで《おさや》!

〇神楽の狂言方である「松崎春狐」の奥さんは、原文で、狐のイメージから仮に名付けられたままに《乱菊》!

〇「お稲」と「千駄木に住む、退役陸軍少将の息子、新しい法学士」を見合わせた長唄の師匠を、踊りの師匠に書き換えて《花崎寿々女(はなさきすずめ)》

〇《桐生品子》の旦那になったのが、「お稲」と破談にされたその「法学士」で、漢字の納まり具合から《桐生晃輔》!

〇「お稲」を見初める「会社の重役の放蕩(どら)息子」は、「ダイヤの指輪で、春の歌留多に、ニチャリと、お稲ちゃんの手を押さえて」の表現が、鏡花の師匠尾崎紅葉の「金色夜叉」まんまなんで、お宮さんを金で嫁にする、銀行頭取の息子富山唯継から《富余継成(とみあまりつぐなり)》!

〇「お稲」が気の狂うキッカケを作った髪結は、江戸後期に流行った女髪結で有名な《お政》!

その他にも、個性的なキャラクターが続々登場します!

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