[加納]ミュージカル『平家蟹』

 花組ペルメル第一弾の作者に「あやめ十八番」主宰の堀越涼君(元座員)を選んだ際、三島由紀夫の近代能楽集を狙い、花組版「現代歌舞伎集」のようなものにしたいと提案しました。彼は歌舞伎に疎いので、こちらがモチーフになりそうな作品を候補として伝えました。条件は一幕物(能には続き物がないし、歌舞伎の多幕物は、現代演劇風な二時間枠作品にはし難い)。「毛抜」「鳴神」「対面」「夕霧名残の正月」「暫」「平家蟹」。それぞれの梗概を伝え、チョイスは堀越君に一任。そして彼が選んだのが、岡本綺堂の「平家蟹」!それが結局『長崎蝗駆經(ながさきむしおいきょう)』という奇想天外な舞台になったのでした。
 さて、その『平家蟹』、初見は1979年6月、建て替え前の新橋演舞場お名残公演、七代目中村芝翫主演、六代目中村歌右衛門が共同演出に名を連ねていました。大概薄暗くて辛気臭い「新歌舞伎」は僕の苦手なジャンルですが、平家の落人である元官女が、妹諸共その恋人である源氏の侍を毒殺し、平家蟹に誘われるまま、一門が滅んだ壇ノ浦へ自らも沈んで行く!という怪奇的な舞台が強烈に記憶されました。
 初演(1912年)は、主役の玉虫を六代目尾上梅幸が演じています。歌右衛門は若い頃から、面長細身、又演技的にも柄が合っていると判断したのか、梅幸の当たり役や型(衣裳などの演出)を踏襲しているからか、後に(1987年)自ら主演し、しかも単独の演出としてちゃんと上演いますが、生憎こちらは劇団旗揚げ年の忙しさからか見ていません(残念)。
 そんなこんなで、実は花組芝居でいつか取り上げようと思っていた一つではあります。ただ、取り上げる為の創作上の動機が浮かばないまま棚上げ状態でした。で、たまたま一幕物という括りの中に入るなと、候補に挙げてみたら、全く別な形で結実してしまって(苦笑)。そして『長崎蝗駆經』の準備中、そろそろ来年のライナップをと思案していて、モチーフの原作を取り上げるのも一興!と思い当たりました。更に、小品で登場人物も少なく内容も陰々滅滅なので、何か芝居らしい華やぎが欲しい!そうだ!ミュージカル化しよう!となった次第です。

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