ご挨拶申し上げます/加納幸和 

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ご挨拶申し上げます

先ず、3月11日に起こりました大震災の被害をお受けになった皆様には、心よりお見舞い申し上げます。日本が今直面している事態を思うと、抱え切れない大きな不安ばかりが我々を締め付けます。そんな折、私達演劇人が出来るのは、せめて一時でも、人々の精神を安楽に沈静させ、生きる事への奮起をして頂く、それしかないように思います。幾分のもどかしさも覚えますが、私達の生み出せる、有りっ丈の「力」をお見せしたいと考えています。



一枚、二枚、三枚…。
これは愛を数える声です!

惨殺された腰元お菊が幽霊となり、夜な夜な井戸に現れ、皿を数える怪談話は、ご存知の方も多かろうと思います。

岡本綺堂が書き残した戯曲『番町皿屋敷』も、お菊は殿様に殺されます。お皿も数えます。けれども幽霊にはなりません。彼女は殿様との純愛を確かめ、喜んで殺されて行くのです。

しかも江戸時代の歌舞伎のように長編ではありません。たった一幕です。なんとモダンな作品でしょう。

現在の歌舞伎界では、これを「新歌舞伎」のジャンルとして、演出も随分リアルな型になっていますが、実はそのせいで、多少地味なイメージがあります。

これを改めて昔の歌舞伎らしく、上白糖でなく、黒砂糖の素朴さでもって作り直してみようと思います。つまり「新歌舞伎」という枷を外して、純粋に「かぶき」として楽しもうと考えています。

こうした時期だからこそ、古来の感性と新しい文明との化学変化が生み残した名作を通して、日本人が日本人を見詰め直し、これからの未来を据えようではありませんか?

     花組芝居 加納幸和