今回の『ナイルの死神』は青井陽治さんによる新訳上演ということでも話題に!
そこで、7月某日『ナイルの死神』新訳台本を携えて、翻訳の青井陽治さん、演出・座長の加納幸和との対談を敢行!
今明かされる「KABUKI-ISM」の謎!?
公演初日までまだ暫く、まずはこちらをお楽しみください!!
青井陽治×加納幸和 スペシャル対談
●新しく立ち上げた「KABUKI-ISM」。アガサ・クリスティ(以下アガサ)を取り上げる理由は?
加納 「翻訳劇を歌舞伎で演じたい、女形を洋服で演じたい」という思いがあったんですね。花組で翻訳劇を演じるなら、新劇の真似をしてナチュラルに演じても意味がない。どうしようかと考えていたときに、「アガサを歌舞伎で演じたら面白いのではないか」と思いついたんです。シェイクスピア作品は他でもオールメール(男性だけ)で演じられるけれど、アガサをオールメールでやろうとは誰も思わないだろうと(笑)。
●青井陽治さんが新訳するということでも注目を集めていますが、今回の翻訳で意識したことはありますか?
青井 アガサが書いた時代の日本語で翻訳したいと。アガサといえば、日本では岸田國士さんが書き始めた時期ですよね。今の翻訳戯曲は、わかりやすく聞き取りやすい日本語で訳されますが、そればかりではいけない気がするんです。役者に語る喜びがあり、観客には新派を見ているような心地良さがある台詞と、花組芝居がネオかぶきとして培ってきたものがうまくジョイントできれば、と思います。
●青井さんは『そして誰もいなくなった』でアガサ作品を翻訳・演出されていますね。
青井 英国の匂いを大事にする、それがアガサの味わいだろうと思うので、風俗劇ですから。一方、推理劇はどの方向から日が昇り日が沈むかにはじまって、具体化かつ超リアルに演出することが必要です。でも、今回の『ナイルの死神』はそれをシアトリカリティに戻す面白さがあるだろうと、僕は期待してるんです。
加納 そうですね。アガサを歌舞伎でやろうとするときに、どこに様式を持っていけばいいのか、というのが今悩んでいるところです。とにかく、気持ちを大事にして演じようと。その中で間や調子が生まれそうなところを拾っていこうかなと思ってるんです。
青井 ああ、僕がイメージしたのもそういう感じです。皆が自分のリズムで自分の思いで芝居をして、それが何かを物語っている。いかにもな登場人物たちの、いかにもな語り合いが、現代のリアリズムと違う「色濃いリアル」を産み出せたら面白いでしょうね。
●アガサ作品の中でも『ナイルの死神』を選んだのはどうしてでしょうか。
加納 女性の登場人物が多い戯曲で、登場人物全員の生き様が絡み合うように描かれているんです。そこに事件が起きてしまうというところに惹かれましたね。
●今回の舞台の見どころを教えて下さい。
加納 青井先生に1930年代の日本語で書いていただいているので、それをどう言いこなそうかということがまず一つ。そして、何か濃いものが舞台からあふれ出ているようにしたい。「アガサを観に来ているのに歌舞伎座に来ているみたい」と思っていただけるようにしたいですね(笑)。出演者が11人なんですが、今回は年長組を中心にキャスティングしたんです。
青井 その配役自体が歌舞伎みたいで面白いですね。
加納 登場人物全員が怪しい(笑)。
青井 アガサ作品は役者が揃わないとできない。「らしい」人が出てこないと成り立たない。シェイクスピアと現代劇の間で、人間の生活自体に様式感がある時代の作品だから、今の普通の役者さんがアガサの素敵さを出すのはとても苦労すると思う。でも、花組の役者さんが持つ歌舞伎の素地がとても役に立つだろうと期待していますね。
加納 エジプトの音楽を歌舞伎の下座と同じように使ったり、定式幕を使い拍子木で幕開けしたいと思ってるんです。
●チラシの岡田嘉夫さんのイラストもとても素敵ですね。
加納 岡田先生が描かれた絵にとても刺激されましたね。絵を拝見して「この衣裳なら、白塗りでできますね」「そうでしょう?(笑)」と言っていただいたり。今回の衣裳は岡田先生のイラストを基本にして作ろうと思っています。青井先生と岡田先生のサジェッションでKABUKI-ISMが、僕が最初にイメージしたものよりどんどん膨らんできました。これから稽古をするのが怖いくらいですが(笑)、とにかく色濃く作っていきたいですね。
(取材・構成 大原 薫)