開幕直前座談会 其の3(最終回)[対談]
(10/05/24 13:00) by seisaku


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構成・文=山村由美香

作家も意図しない深みが見えてくる

――再演の稽古の、現段階の手応えは如何ですか?

加納 ダブルキャストで稽古期間が短いので早く立たたなきゃとは思ってるんですが、まだ読み稽古なんですよ(座談会は5月3日)。うちは、今の現代演劇の劇団より読み合わせに時間をかけていると思います。『ハイ・ライフ』だけでなく、どの作品でも長ければ一週間くらい読み稽古して、台詞のすごく細かいところまで分析していくんです。この台詞はどういう気持ちで言っていて、どういえば効果的なのかってことをちゃんと押さえておかないと、立った時に見えなくなっちゃうので。

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手前味噌ですけれど、歌舞伎をベースにした芝居をしていることが、現代劇をやるときにも役立っている気がします。歌舞伎の台詞って音にすごくうるさいんですよ。だから現代劇をやるときも、「何かが伝わらない、どこが違うんだろう。あ、音が違うんだ」と、同じやり方で演出できるのが幸いだなと思います。そういう訓練も含めて昔の新劇って、師匠と弟子みたいな関係があって、その中で学ぶことが多いと聞いていたんです。けれど最近は先輩から細かいこと言われることないらしくて、随分変わったんだなと。そういうところも、少なくとも花組では忘れずにやってきたいなと思ってます。
吉原 やっぱり俳優に基礎的なトレーニングは必要ですよね。舞台に立つからには、体の使い方とかが見ていて美しくないといけないと僕は思います。今の日本の演劇は、そういう基本的なことを素通りしちゃってやってる人が、あまりに多い気がする。

――先ほど『ハイ・ライフ』はユニバーサルな作品とおっしゃいましたが、そういう部分も、演じる俳優に基礎がないと本来の魅力が伝わらないのではないでしょうか。

吉原 そう、ただの悪ふざけになってしまいますね。
加納 僕もそう思います。今回の稽古では、初演で気づかなかったことが随分出てきているんですよ。「この台詞は裏があるね、こう考えても後の会話がつながるよね」とか。それが正解かどうかは分かりませんけれど、新しいものがちょっとずつ見えてきて面白いです。
吉原 しかも、それが作家の意図とは限らないんですよね。しっかり人間を見て、リアルに書けば書くほど、作家自身も気づかない何かがその向こう側にある。
加納 ああ!
吉原 正直言って、リーというのは大した作家ではないと思うんですが、この一本に関しては人間をよく見て書いている。だから本人が意識してなくても、いろんな読み方ができる深みがあるんです。

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水下 日常なんだけど日常生活ではないところが面白いんですよね。
加納 たとえば、最初のシーンでバグがなぜ知り合いの殺しの話をするのか、それはどういう効果を狙ってるのかというのを稽古で話したんですよ。バグを演じる役者は「ただ話したくなったから話してるんじゃない」って言って、確かに本人としてはそうなんだろうけれど、劇作家として、ここにこれを持って来たのは何故だろうと。思い違いかもしれないけれど、だったら、その効果を出すためにこのシーンはこうしようとか、テーマが見つかったりするのも面白いです。
水下 それが再演の面白さですよね。あと今回は、加納が初演の後にいろいろ現代劇に出て、日常会話の芝居についてすごく洗練されてきていて、それを今の稽古で俺たちが受け取っている感じなんですね。読み合わせもすごく丁寧にやってくれているから、そういう部分でも初演より面白くできるんじゃないかと期待しています。
 

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