辻村ジュサブロー |
人形作りをしていると、大切なことは何かとよく聞かれるんですが、
「ほどの良さ」だと答えています。それ以上のことをするとえぐくなる、
その手前で抑えるという意味で、実はこれ、全てのことにおいて言えるんですね。
花組芝居の舞台にはすごく、この「ほどの良さ」を感じます。 今はそういうことを忘れた芝居が多くて困るんですよ。想像力を働かせないというかね。 だから昔書かれた本をト書きに至るまで忠実に再現してしまうなんてことになるんです。 前に、ある人に花組芝居の『天守物語』が面白いって話をした時、 「あれは本がいいからね」なんて答えが返ってきた。とんでもない思い違いですよ。 だって鏡花の作品でも、表現方法はその時代、時代で、 創り手側がどう感じて消化するかによって変わってくるはずでしょう。 何しろ観てもらうのは今のお客様に、なんですから。 その表現を探して四苦八苦するのが創り手側の想像力の見せ所であり、面白さではないですか。 自分が咀嚼し、消化し、その中から生み出したものが目の前のお客様の感覚とぴたっと合った時、 「ほど良さ」が「心地好く」感じるわけです。 それから、詰め込み過ぎの舞台もなんて多いことか。 あれでは観る側がおなかいっぱいですよ。特に演出家が役者を兼ねている場合はそうですよね。 確かに難しいことなんだけど。加納氏は演出家と役者との切り替えをきちっとやって、 客観的に舞台を見つめている。結局それも「ほどの良さ」につながるわけです。 今回花組芝居の『悪女クレオパトラ』に参加するのは、 そういった「心地好さ」を感じさせるものを創り続けている加納氏に非常に興味をひかれたからです。 実際に作業を始めてみると、彼が次から次へと出してくるアイデアに触発されて、 前からやってみたかったけれど他の舞台では決して提案し得なかったことが思い浮かんでくるんですよ。 今回はそれが出来るかもしれないな、と。 絶対に面白いものになりますよ。(談) |