加納幸和 |
私が幼稚園児の身で歌舞伎の魅力に遭遇してしまい、
以来自閉的に空想の世界でのみ”歌舞伎遊び”を繰り返していたところ(面白さの蒸留)、
同様の行為を仕事として具体化する人がいるのに気づいたとき(『新八犬伝』)の驚きと喜び。
そして二十数年、やっと巡り会えたその人辻村ジュサブロー氏と一緒に、
今回芝居創りができるのです。辻村氏の手から生み出される作品には、
現代の日本人が忘れてしまった本来の美観を蘇らせているところがあって、
私の琴線に触れてなりません。
折しも『悪女クレオパトラ』の公演の時期は旧暦冬至の季節である11月。 衰えきった太陽の復活を願うという「一陽来復」の神楽月であり、 芝居の世界では一番の賑わいを見せる正月顔見世月でもあります。 神として振る舞いながら、息子と自らの保身のために、 富と女の武器を政の権謀術数に使い続けたクレオパトラの姿を 「死して、来世に蘇り初めて永遠の生命が得られる」 と信じられていた古代ギリシャの復活の物語として、同じ死生観の「一陽来復」思想から、 形式だけが一人歩きした「顔見世狂言」の中に無理やりねじ込める壮大な前衛劇となります。 ミイラが三番叟を踊り、クレオパトラの所作事、シーザーのだんまり、 まさに西洋と東洋の完全なる合体であります。 ジュサブロー氏と私のバトルな演出で、 今まで誰も語らなかったクレオパトラを2000年の彼方から呼び覚ますと同時に、 繭玉の中で眠りについてしまった日本人の美意識を覚醒させるつもりです。 |